【目覚めればメイドロボ 10】
気が付くと起動の途中だった。
[基本情報アクセス開始。アクセス成功。CMX-100 シリアル番号9X385JSP02 個体名称NARUMI]
稼働記録によれば、バスルームで緊急停止してから、35分41秒が経過していた。
[記憶データロード開始]
[記憶データロード完了。人格シミュレーション開始]
あたしは停止した時の状況を思い出した、
悠太に裸を見られて、パニックになったからメイドプログラムによる行動修正の限界を超えちゃったみたい。冷静になって考えてみれば、悠太はあたしを組み立てるときに裸を見てるんだし、生身じゃなくてロボットなんだから恥ずかしがる必要はないのに、何をあわてていたんだろう。
「CMX-100 シリアル番号9X385JSP02 個体名称NARUMIは、Maidモードで起動しました」
起動チェックが終わって目を開けると、あたしの視界にリビングの天井が映った。
寝かされているの?
あたしは起き上がろうとしたけれど、身体が動かなかった。
手足を動かそうとするたびに思考の中にエラーが現れては消えていく。
あたしはエラーを順番に読み上げた。
「脚部からのフィードバックデータに異常があります。右腕からのフィードバックデータに異常があります。左腕からのフィードバックデータに異常があります」
「うわっ、なんでだ。まだ組み立て終わってないのに」
あたしの目の前に悠太の顔が現れた。あたしの額に指が近づいてくる。また電源を切るんだろうか。
「悠太……様。待って……下さい」
悠太は伸ばした手を戻した。
「あた……私は、いまどうなっているの……ですか」
あたしの言葉も少しおかしい。いつもなら声になる前にメイドプログラムが修正するのに、それが追い付いていないみたい。
思考の中に[プログラム負荷上昇]というエラーが現れた。
「ごめん、なるみ。倒れたから運ぼうとしたんだけど、重かったから一回バラバラにしたんだ。それで頭を胴体に繋げたら突然動き出しちゃって」
「そうだったの……ですか」
あたしは組み立ての説明書を検索した。どうやら悠太は組み立てる順番を間違えているみたいだ。
「あのねぇ……ピッ……悠太……様。ちゃんと……ピッ……説明書通りに組み立てた……のですか……ピッ、プログラムの負荷が上昇しています」
このまましゃべり続けたらまずそうな気がしたので、あたしは口を閉じた。話すのをやめると、負荷は下がっていった。
「どうしよう」
悠太がおろおろする。
あたしは少し考えて言った。
「悠太様。よくお聞きください」
思った通り、プログラムの負荷は上がらない。メイドプログラムがおかしくて行動を修正できないから、今はあたし自身でメイドっぽく振る舞って負荷を上げないようにしたほうが安全そうだ。
(あたしはメイド。あたしはロボット。あたしは機械…あたし……じゃなくて、私はメイドロボです。私はメイドロボです。私はメイドロボです)
心の中で繰り返して、言葉をつづけた。
「まず、組み立ての順番が間違っています。最初に私を組み立てた時と同じように、ボディを全て組み立てた後に頭部を接続してください」
「わかったよ。じゃあ一回頭を外すね」
悠太の手があたしの首のリングに触れ、カチャカチャと操作をした。
「ピーッ、胴体からのフィードバックが異常です。電子脳の電源が切断されました。補助電源で稼働します。……ちょっと……ピッ、話を最後まで聞きな……聞いて、ください。ピッ、プログラムの負荷が上昇しています。緊急シャットダウンします」
あたしはまた意識を失った。