セクサロイドAYUMI

作 市田ゆたか

「それじゃあ、科学部は廃部ということで問題ないわね」
生徒会長の榊原亜由美は、何に使うかわからない機械が無秩序に放置された部室を見回して言った。
「待ってよ。科学部は学校の創立当初からあって、出身者には第一線で活躍する優秀なエンジニアが沢山いるんだから…」
科学部の部長で唯一の部員でもある石上拓郎は言った。
「いくら歴史があっても、今の部員はあなただけでしょ。いつまでも、広い部室を与え続けるわけにはいかないわ。
来週水曜日の部長会議に生徒会議案として提出するから、そのつもりで。わかったわね」
「そんなぁ、ひどいですよ」
拓郎は亜由美の反応を窺うようにおびえながら言った。
「あたしを納得させられるような実績があれば、考えてあげてもいいわね。まあ無理だと思うけど」
「その、実績はあるんだけど、まだ見せるわけには」
「あのねぇ、見せられないものを実績とは言わないのよ」
亜由美は眼鏡のブリッジを指先で抑えながら、呆れたように言った。
「会長。こんなところにいつまでもかかわっているのはやめて、さっさと廃部にしましょう」
副会長の高橋潤一に促されて、亜由美は科学部の部室を後にした。

「まったく、どうしていままで残っていたのかしら」
「調べたところ、過去にも何度か廃部にしようとした生徒会があったようですが、いつもうやむやになっているようですね。
まあ、それも我々の代で終わりですよ」
亜由美と潤一は生徒会室へと戻った。
「もうみんな帰ったみたいね。あたしはもう少し事務をしてから帰るけど、どうする」
「それでは、私はお先に失礼させていただきます」
潤一は机の上に置いてあったカバンを取ると、生徒会室を出て行った。
亜由美が書類整理をしていると、マナーモードの携帯電話が震えた。
「メール?誰かしら」
差出人は科学部の拓郎だった。
「今から科学部の実績を見せます。部室に来てください…ですって?まったく、しょうがないわね」
亜由美は荷物をまとめると、生徒会室を出て科学部の部室へと向かった。
「来たわよ」
部室の扉を開けると室内の電気は消え、誰もいないようであった。
「いたずら?」
扉を閉めて帰ろうとした時、亜由美は甘い香りをかいだ。
「あれ、どうしたん…急に…眠く……」
亜由美が床に崩れ落ちると、部室の奥から3人の白衣の男が現れ、ぐったりとした彼女を抱えて室内へと運び込んだ。


「うーん、ここは一体」
亜由美が目を覚ますと、ベッドに寝かされていることに気がついた。
起き上がろうとしたが、首が革のベルトのようなもので固定されていて動くことができない。同じように両手の手首も固定されていた。
動かしづらい首をなんとか左右に振ると白衣を着た拓郎の姿が視界に入った。
どうやらそこは科学部の部室のようであった。
「ちょっと、何なのよこれはっ」
亜由美は拓郎を睨みつけて大声をあげた。
「目がさめちゃったの?おかしいなぁ。麻酔が少なかったのかなあ」
「目がさめちゃったの、じゃないでしょ。一体どうなっているのよ。ちゃんと説明しなさい」
「実績を見せろっていうから、卒業した先輩たちに協力してもらったんだ」
「あたしを誘拐したら廃部がなくなると思ったらお間違いよ。副会長の高橋君のほうが廃部には熱心なんだから」
「うん。わかってるよ。だから会長には科学部を守ってもらおうと思って…」
拓郎は無邪気にほほ笑みながら話を続けた。
「何をばかなことを言ってるのよ。誘拐なんてしてあたしに言うことを聞かせられると思ってるの?逃げ出したら訴えてやるわ」
「うん、会長ならそう言うと思ったよ。だから僕は考えたんだ。どうしたらいいかって。
それで先輩たちと相談して、会長を改造することにしたんだ」
「改造ですって」
「うん。僕の命令を聞くロボットに改造することにしたんだ。もう結構進んでいるから麻酔が切れても痛みはないよね。
首をあげて身体を見てよ」
亜由美は首をおこして自分の体を見た。
両足は黒光りする金属でひざ上まで覆われており、そこから上はへその下まで光沢をもったプラスティックになっていた。
股間は人形のようにツルツルで、女性としてあるべきものは失われていた。
胸から腹にかけての肌は切り開かれ、内臓が取り出されて機械を埋め込む作業が行われているところだった。
「うっ…」
亜由美は無言で拓郎を睨みつけた。
「すごいね。これを見ても泣いたり叫んだりしないなんて。さすが会長だよ」
「泣いたって事態は好転しないわ。あたしをサイボーグにして身体を操ろうっていうわけね。でもそんなことしても無駄よ。
いくらそんなことしたってあたしをよく知る人が見たら偽物だとわかるわ。そうなりたくなかったら、元に戻しなさいよ」
「間違えないでほしいなぁ。サイボーグじゃなくてロボットだよ。サイボーグは脳は生身だけど、会長は脳まで全部機械になるんだ。
会長の言う通り、外から操ったんじゃあ偽物だと思われちゃうよね。だからナノマシンで会長の脳まで機械にして、
話し方とかはそのままで命令に従うようにするんだ。」
拓郎は自慢げに続けた。
「科学部の存続には成果が必要だって言ったよね。だから、会長自身にその成果になってもらって、
会長自身の言葉で科学部の存続を訴えてもらおうっていうわけさ。
説明はもういいよね。上半身も改造するから、そろそろ眠ってね」
「そんなこと、許さ…な……」
首筋にチクリとした痛みを感じると、亜由美の意識は闇に沈んだ。

 

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