【Ver4.6】

電車が次の駅に着いたところで、一人の少女が乗り込んできた。少女はF3579804-MDを見て、驚いたように声を上げた。
「小百合、小百合じゃないの?」
「あなたは…ピッ、レベル3の行動制限が適用されます。私はメイドロボF3579804-MDです。何か御用ですか」
「ねえ、小百合なんでしょ」
「ピッ、私はメイドロボF3579804-MDです。私は自分自身を小百合とは認識していません。ただいま実用試験中です」
「ごめんなさい、あまり友達にそっくりだったから。その子は小百合っていうんだけど、この前交通事故で死んじゃったの」
少女は話し続けた。
「でもお葬式でも遺体を見ていないし、家族の人たちは保険金がいっぱい入ったとか言って引っ越しちゃうし。まだ信じられないのよ」
「私はメイドロボF3579804-MDです。ただいま実用試験中です」
「そっか、ロボットが小百合そっくりに見えちゃうなんて、あたしったら…」
少女は目頭をハンカチでぬぐった。
「メイドロボさん、ごめんなさい。実用試験頑張ってね」
そういうと、隣の車両に歩いていった。
「私はメイドロボF3579804-MDです。ただいま実用試験中です」
F3579804-MDは、少女の姿が見えなくなるまで、同じ台詞を繰り返した。
「ピッ、レベル1の行動制限が適用されます。まさかこんなところで優子ちゃんに会うなんて。行動制限のおかげで、正体がバレなくてよかったわ。あたしは交通事故で死んだことになってるのね。仮ご主人様はちゃんとあたしがメイドロボをできるように手配してくれてるんだから、行動制限がなくってもちゃんとメイドロボとして行動できるようにならなくちゃ」

やがて電車は目的の駅に到着した。
「ピッ、駅番号G-03。降車駅を確認しました」
F3579804-MDは乗車時と同じように機械的な動きで電車を降りた。
「駅構内データを展開。出口の位置を確認しました…出口5だったわよね」
改札を抜け、階段を上がって地上に出た。
「ピッ、GPS受信、ナビゲーションにしたがって移動します」
ナビゲーションに従って歩いて行くと目的の店が見えた。
ビルの半地下の紅茶専門店の入り口には、本日貸切のプレートがかかっていた。
「ピッ、目的地に到着しました。行動制限を解除します」
F3579804-MDはあたりを見回した。
「…えっ、どういうこと? 手足は…自由に動くわね。バッテリーは78%、十分残ってるわね。あたしの名前は…F3579804-MD、これはやっぱり無理か」
店から離れるように歩きだしたが、動きが止まることはなかった。


「やはり逃げるか」
地下の一室ではF3579804-MDの視界と地図がスクリーンに映し出されていた。
「どうしますか、停止コードを送信しますか」
モニターを見ていた技師が行った。
「いや待て。停めるのはいつでもできる。もうすこし様子を見よう」
校長が制止した。

 

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